ShortStory

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 軋む。


 細い腕だ、と思った。
 細い腕、細い肩。おそらくきっと、自分のものよりも。
 触れたい衝動に駆られたが、生憎と両の腕は自由にならない。
 押さえつけられた二の腕は、感覚がないほどに痺れ、指先までもが、重い。
「ねぇ、」
 耳元でそよいだ風が、甘えた声を遠くする。
「こっち、向いてよ」
 甘く、柔らかい声。柔らかい髪が、頬を擽る。続いて、指が。
「…冷たい」
「ああ、」
 思っていたよりも冷えた指が、頬から首筋を流れるように、辿る。
「緊張しているのかな、少し」
 露わにされた、胸から脇へ。
「こっちを、向いてよ」
 風に触れた髪が、さらり、と流れる。
「でないと、キスも出来ない」
 くすり、と、微笑う気配が、した。  聞こえない、振りをする。視線を彷徨わせる。ただぼんやりと。カーテンの隙間から漏れる、月の灯り。 霞んだ、ひとすじの。カーテンが揺れる度に、皓りも揺れる。僅かずつ。ゆっくりと。
 冷えた感触が、脇腹を撫で上げ、再び胸に触れる。
 不意に。
 首筋に柔らかく、湿ったものが押し当てられる。先程の指とは異なる。熱、を帯びたもの。 痛みに似た、刺激、に、身体が反応する。挙げそうになった声を殺す。 投げた視線の先、揺れるカーテンの裾が何と無く気になった。
 唇が、舌が、指先と同じ経路を辿る。
「…は…っ…」
 堪え切れずに漏れた喘ぎを噛み殺す。唇の形が悪くなる、と咎めたのはやはり彼だったか。 少し自由になった指先に、力を篭める。 あまり上等ではないらしい、布地を滑り、爪を立てて漸く、手繰る。
「どうして、」
 視界の隅で、長い髪が、さらり、と揺れた。
「どうして、声を、殺すの」
「…教えない」
 指先に落ちて来た細い感触を、何気無く、弄ぶ。皓く淡く、柔らかく輝く。 石の床を揺れる灯と同じ様で。けれども、暖かい。
「………狡い、ね」
「そうだな」
 応えて。
 顔を、挙げる。見開かれた、紅い瞳、驚いて。見つめて、微笑う。
 肌蹴た襟元を引いて、口付ける。縋り、応えて、貪り、求める。
 背に手を回す、意図はたったひとつ。簡単過ぎて。
 戸惑う指先、触れる。荒い呼吸の間、耳元で、微かに。

「………愛しているよ」

 呼吸を飲み、懸命に縋る、腕。

「……やっぱり、狡い」

 煩さく鳴る、風の音に。
 目を、閉じる。

 そうして更に、激しく、軋む。
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